滝川の家01(デビュー作)/光と風が滝のように降り注ぐ家

  • 所 在 地 :静岡県富士市
  • 竣  工:1995年6月
  • 構  造:RC造+木造在来工法  地下1階地上2階建て
  • 延床面積:184.38㎡ (55.77坪)車庫含む
  • 敷地面積:418.49㎡ (126.59坪)
  • 備  考:蓄熱式温水床暖房

 

独立前夜の私を信じて

中澤建築設計事務所として独立し、手がけた最初の住宅です。いわば建築家デビュー作です。施主は高校の同級生で、仲の良いという関係でもなく、お互い知っているという程度でした。私が独立するようだと共通の友人から聞きつけて、声をかけてくれました。

ご両親に会い、何も示すものはないけど、私を信じてくださいと、自分の建築観を語りました。また、「仕事を依頼されれば独立します、だめなら路頭に迷う」と半ば脅迫じみたお願いをしました。人生は不思議なものです。この根拠もない情熱を受け入れてくれて、依頼されることになりました。

この建物の建つ地区は、昔から変わらぬ風景を残すのんびりしたところで、富士山の地下水が湧き出る土地柄でした。水にまつわる神社や寺が点在し「泉の里」と呼ばれていました。そんな「水の流れ」を建物に表現できないかと考え、各部屋どこにいても光と風が滝のように降り注ぐような設計を心がけました。

光と風が滝のように降り注ぐ

私が建築家になるための設計信条とした「自然との共存・有機的建築」につながったと考えています。平面的にもX軸、Y軸方向にそれぞれ風が抜けるように工夫しました。玄関前に道路から玄関内が見通せないように、屋根のある待合所を作り、玄関引戸を全開するとホールと待合所の境界があいまいになり、自然と人を迎え入れる演出を致しました。

家づくりの延長戦

この土地は、竹採公園(かぐや姫発祥の地のひとつと言われている)の近くでした。設計当時知り合ったフラメンコギターリストの吉川二郎氏が、かぐや姫を題材とした曲を構想していました。かくして新築披露時に見学会のイベントとして、コンサートという形で、構想した曲「月の宮古」を披露してもらう事になりました。この縁が始まりで、富士市で吉川二郎氏のコンサート企画をすることになりました。

施主と私の二人三脚で始まった活動が、JIRO富士ファンクラブという会に発展し、現在、多数の会員の協力のもと、運営されています。施主とは、それ以来高校時代とは比較にならない、付き合いの深さとなりました。家づくりが人間関係を深めてくれたと思っています。

常に初心を忘れずに・・・

カーン・カーンと師走の滝川に、乾いた音が響きわたる。
12月17日 上棟式の前の日のこと、土台を敷き終え、大工さん達がいっせいに柱を掛け矢で打ち付けている朝のひととき。
前日まで、扁桃腺にかかり40度の熱が3日続いて点滴を打ちながら現場に通った。そのためだろうか、不安が交差する中、この音が妙に心に響く。次第にその音が小さくなっていき、昔の記憶が鮮やかに蘇ってきた。

中学一年のときの技術家庭で創った作品を先生に誉められたこと。建築家になろうと思った頃。大学に行って、建築に自分に失望し悩んだこと。初めてガウディの作品に接して感動した日。建築の素晴らしさに再び目覚めた日。
数々の夢が生れ、数々の夢が去っていき、諦めずに追いかけてきた日々。そして、今は亡き父に誓ったあのとき・・・・

得も言われぬ心の奮えがやってきた。自然と涙があふれてくる。その時、一本の道が視えた気がした。心にひかれたレールを感じる。手探りで歩いてきた道に光が差した思いだった。
もう戻れない、もう戻れない一歩を歩き出したのだぞと、自分に言い聞かせていると、ふと我に返った。

眼のまえには、リズミカルに柱を建てていく大工さん達がいた。そこでは相変わらず心地よい音が響いていた。

※これは1995年6月17日、私のデビュー作となった「光と風が滝のように降り注ぐ家」で見学会&パーティーを開かせて頂いた折に、皆様に配ったあいさつ文です。建築家が卵から生まれた瞬間でした。常に初心を忘れずに、この日を思い出すことにしています。

2020年10月25日